北海道 知床 硫黄山(1562.0m)、知円別岳(1544m)、東岳 (1520m) 2011年7月2日

所要時間 5:48 ゲート−−5:54 登山口−−6:28 硫黄鉱山跡−−6:58 新噴火口最上部−−7:29 硫黄沢−−8:30 稜線−−8:49 硫黄山 9:53−−9:58 知円別岳分岐 10:19−− 10:32 1550m峰直下−−10:55 南岳分岐−−11:00 知円別岳 11:11−−11:15 南岳分岐−−11:33 東岳 11:46−−12:05 南岳分岐−−12:47 知円別岳分岐 13:04−−13:28 硫黄沢を離れる−−13:52 新噴火口最上部−−14:13 硫黄鉱山跡−−14:38 登山口−−14:45 ゲート

概要
  カムイワッカから往復。行きも帰りもヒグマには遭遇せず糞だけ見たが、ヒグマが濃い場所なので要注意。最初は硫黄山だけの予定だったが、時間が余ったため知円別山に足を伸ばし、道が無い東岳への稜線はハイマツが少なそうで行けると判断して急遽東岳往復を追加。硫黄山までの登山道はハイマツや笹の葉がはみ出していたりするが、最近手入れをしたようで思ったより整備されている。標高950mくらいから硫黄川は残雪に埋もれて快適遡行。雪はまだ氷化しておらず適度な傾斜でアイゼン不要。最後の標高差100mは雪が消え砂礫の谷を登って尾根へ。硫黄山への登りは夏道が雪に埋もれていたので雪田北側の薮の薄いところを適当に登り、露岩帯で夏道に合流して山頂到着。まだ下界はガスが掛かっていたが遠くは択捉島の山らしき姿も。知円別山へは1人分の多少新しい足跡があっただけ。1550m峰への登りのルートが分かりにくいがガレの東端にルートがある。1550m峰を越えるとルートはハイマツが被るが(たぶん昔からそんな状態だと思う)道はしっかりしていた。鞍部への下りは東側を巻くが一面の残雪。アイゼン無しでどうにか突破したが、もう少し時期が遅くなり雪が硬くなったらアイゼンが必要。知円別山直下の巻道はガレ崩壊により消えてしまっているが、ガレは垂直ではなく安全に横断可能。縦走路は知円別山をそのまま巻いてしまうが、ガレの縁に沿って山頂目指すと、ガレがきつくなると踏跡が登場。山頂は展望良好。東岳へはガレの縁を歩いたり、砂礫地を歩いたりでハイマツを突っ切ったのは10m程度。道が無くても問題なし。山頂にはケルンがあった。縦走路から東岳間はシレトコスミレの大群落が点在し、これを見たいなら硫黄山ではなく知円別山まで足を伸ばすのが良い。存在数が全く違う。

 北海道の山はあちこち登ってメジャーどころで未踏の場所はだいぶ少なくなってきた。そんな中で登りたい候補の上位にランキングされているのが知床の硫黄山だった。本来は羅臼岳から一気に縦走したいところだが、このエリアで登山口と下山口が分散すると足が確保できないのが難点であり、前回の羅臼岳では羅臼岳しか登らなかった。今回も縦走は無理なので硫黄山のみを目的とし、可能なら周囲の山を登ることにした。

 硫黄山は昨年登ろうと考えていたのだが、知床五湖より先の車道は工事中で通行止めとなり1シーズンにわたって入ることができなかった。いや、確かそれ以前から数年間入れなかったと思う。今回は「試行」ということでカムイワッカまで入れるようになっているが、いつまた入れなくなるか分からない状態で、この機会を逃さず登った方がいいだろうと考えた。ネットで調べるとカムイワッカから先は歩行者を含めて基本的に通行禁止だが、事前申請した登山者に限ってカムイワッカ〜硫黄山登山口間の徒歩での通行を認めるとのことで、入山1週間前にネットで申請書を提出し、現地の詰め所に紙で提出できるよう1部を印刷して持参した。ネットの案内では登山者用駐車場は詰め所近くの2台だけで、残りのスペースはカムイワッカの観光客用となっており、遅れてきた場合は少し手前で林道脇に駐車スペースを探すしかなさそうだ。まあ、私の場合は前夜に入るので大丈夫だと思うが。

カムイワッカのゲート ゲート前駐車場。登山者用は手前の2台分のみ

 天気予報では週末はまあまあの予報で雨の心配はなさそうだ。もっとも、ここまで来たからには悪天でも登るつもりだったが。千歳から知床までは遠く、カーナビの指示で最短コースを行っても所要時間は7時間! 高速に乗れば少しは短縮できた可能性はあるが、それでも6時間はかかるだろう。オホーツク海沿岸に達すると霧が立ち込めて視界が制限され車のスピードを落とさざるを得ず、鹿や狐も多数出没してぶつからないよう注意も必要だった。進むにしたがって霧雨になってきた。知床五湖より先はダートとなるが車が多数入っている状況で路面状態は良い。延々と進んで詰め所と車止めのあるカムイワッカ着。登山者用スペースは品川ナンバー1台があるだけでもう1箇所は空いていたので使わせていだく。さすがにこの長時間運転は眠くなり、酒を飲んで速攻で寝た。

 3時間の仮眠で起床、既に5時で周囲は明るいが霧に包まれていた。霧雨というほどではないのでまだいいか。先客は既に出発したようで品川ナンバーの車に動きは無い。軽い朝飯を食い終わってこれから出発しようと準備している男性に挨拶し、こちらが先行する。詰め所は無人で申請書入れの箱にプリントアウトした申請書を入れて出発。

林道には鹿の足跡 硫黄山登山口
登山口の案内標識 登山口の熊注意標識

 ダートの広い林道を鈴を鳴らしながら歩くと割と近いところで硫黄山登山口が登場。この先からが登山道だ。登山口にはヒグマ出没注意の看板があり、新噴火口までの間がヒグマの餌場となっているとのこと。出ないことを祈るしかない。今回はウェストポーチに2個の鈴をぶら下げている。ネットで今年6月に登った人の記録では、数年間登山道が放置されたため藪がはびこって歩きにくいと書かれていたが、その後整備を行ったのか笹はきれいに刈り払われていた。これなら心配なさそうだ。

刈り払いされた登山道 樹林中を緩やかに登る

 傾斜の緩い尾根は背の高い落葉樹林に覆われて展望はないが、どのみちこの霧では樹林が無くても何も見えないだろう。登山道の真ん中に少し古いヒグマの糞が1個だけ落ちていたが、日高のときのような真新しい糞や掘り起こした跡はなかった。時々手を叩いて大きな音を出しヒグマに存在を知らせるようにした。

時々開けるがガスの中 早くもハイマツ登場
硫黄鉱山跡 坑道入口跡?

 標高が500mを越えると樹林が開けた場所に出るが霧で全く見通しが無い。そして井戸のような窪みが登場。硫黄臭と油の匂いが漂っており、案内看板によるとここが硫黄鉱山跡とのこと。その先は賽の河原のように樹木が無く溶岩が点在した場所で、いかにも硫黄がありそうな場所だった。たぶん、新噴火口の最下部付近だと思う。

ガスに包まれた溶岩地帯を進む。ルート分かりにくい 溶岩が続く
砂礫地 ハイマツの中のルートも

 この先は樹林が無くなって溶岩ごろごろの尾根西側を歩くようになる。相変わらずガスって展望が利かず、先の様子が分からないのが歯がゆい。踏跡の雰囲気やケルン、そしてたまにあるペイントを頼りに進んでいく。しかし周囲に藪がなくどこでも歩ける状況で、しかも地面は溶岩に覆われて足跡が付きにくい地形でガスられて先が見えないのでは、正しいルートを辿るのも一苦労で2回ほど外してしまった。しかし、それなりに踏跡は濃いので外して少し歩くと明らかに人が歩いた形跡が薄くなるのでミスに気づくことができる。1箇所で地温が上がった場所があり、その付近が火口らしいがガスで周囲が見えないのでピンと来なかった。ガスが晴れた帰りに通ったら地熱がある付近で弱い噴気があったが、その付近の地形は火口のように凹んでいるわけではなくただの斜面だった。

目印が無いとルート判断が難しい 新噴火口最上部の標識
新火口最上部を過ぎるとハイマツの尾根上を行く ハイマツの海が続く

 「賽の河原」地帯を過ぎて樹林帯の尾根に突っ込む手前に標識があり「新噴火口最上部」となっていた。う〜ん、溶岩はゴロゴロしていたが火口らしき地形は分からなかったなぁ。まあいいか。この先は細くなった尾根直上にルートが移り、しかも周囲は立ったハイマツの海で切り開かれた登山道以外は歩きようがないのでルートに迷うことはなくなった。体に触れる笹の葉があるが、厄介なハイマツは刈り払われていて邪魔ではないので大助かりだ。しかしこの標高でハイマツとは、知床恐るべし。冬の気象の厳しさだろうか。この一帯は広大な範囲で立ったハイマツの森であり、登山道が無ければ沢を登るか雪のある時期しか入れないだろう。

標高950m付近 硫黄沢へトラバース。笹多い

 ハイマツの海を登っていき、標高950mで稜線を外れて東にトラバースを開始し、硫黄沢へと下っていく。尾根を外れると低い落葉樹林に切り替わり、刈り払いが不十分となって笹が増えてくる。霧で濡れた笹なのでズボンを濡らすが、先行者のおかげでびしょ濡れにならずにすんだ。硫黄沢は途中から雪渓歩きになるはずで、登っているうちにズボンが乾くだろう。

硫黄沢に出る(下流方向を見る) 硫黄沢上流方向を見る。踏跡薄い

 枯れた小さな沢を横断し、次の水が流れる沢が硫黄沢だった。下ってくるとここで進路は左に屈曲するため、誤って直進しないよう沢を横断するようにローブが張ってあった。ここで雪が現れると思いきや、まだほぼ無雪だ。沢沿いのルートになると途端に道が薄くなり、目印も少なくて本当にここが硫黄沢だよな?と不安になる場面だが、少し進むとリボンが出てきてルートに間違いないと判断できた。水量は少なく、右岸左岸に乗り移るにも苦労は無い。

雪が現れる 滝でもあるか? 標高1080m付近

 少し登って標高約960mを越えると残雪が続くようになり、滑りやすい石の上を歩く必要がなくなってかえって楽に歩ける。まだ雪は氷化しておらず、傾斜は適度でノーアイゼンで問題なし。念のため持ってきた6本爪アイゼンとピッケル代わりのストックの出番はなかった。あとは本流を最後まで詰めればよく、一番太い雪渓を延々と登っていく。1箇所だけ滝がありそうな傾斜の場所があったが、デブリの影響か、そこだけ雪の表面の凸凹が激しく雪が汚れており、特に滑ることもなく簡単に通過できた。

ガスの層上端付近 ガスを抜けて快晴エリアへ!

 標高約1100mを過ぎると徐々にガスが薄まって青空が透けて見えるようになり、約1160mでとうとう雲海の層を突破して晴れのエリアに突入。前回の羅臼岳と同じで下界の悪天は低い雲海の影響であり、少し高度を上げれば快晴エリアなのだった。どうもこの時期の知床(というか道東の海沿い)は低い雲が垂れ込めることが多いような。

雪渓上端 砂礫の谷を登る
振り向けば雲海 これが硫黄山(本当の山頂はまだ見えない)

 高度が上がると徐々に雪渓の幅が狭まり、標高約1300mで雪が消えて水が無い砂礫の谷を登るようになり踏跡が復活する。稜線はもうすぐで右手の高まりが硫黄山だろう。左手は火山らしく赤茶けた無名峰。

間もなく稜線 稜線から見た硫黄山方向
稜線から見た硫黄沢方向と1372m峰へと続く尾根
雪田右側の籔の薄い場所を登る ザックが2つ転がっていた

 稜線に出て踏跡は硫黄山目指してまっすぐ登っていくのだが、やがて夏道は広い雪田に覆われて消えてしまう。雪田は結構な傾斜で登るには安全性を考えてアイゼンが必要と判断し、ここは雪を避けて雪田右手(北側)の雪の無い斜面を適当に登ることにした。植生は森林限界で低いダケカンバが点在するだけで藪は薄く、木が無い場所を選んで登っていけばいい。歩きやすいところを適当に登っているとザック2つを発見、どうも先行者の物らしい。山頂までもうすぐだが、楽をして空身で往復しているのだろう。こちらは山頂で休憩する際に防寒着が必要な格好で歩いているので、ザックを背負ったまま山頂を目指す。

 雪田最上部を横切ると再び夏道に合流。ここで下ってきた男女2人とすれ違う。ザックの主だろう。私と同じく東京からの遠征組で、硫黄山の山登りの他にこの付近の固有主である「なんとかスミレ」(後日調べたらシレトコスミレだった)を見にきたとのこと。白いスミレとのことでこのちょっと下にあったと教えてくれたが帰りにでも探してみるか。

山頂直下は岩稜帯 岩場から下を見る

 これより上部は傾斜が急な露岩帯で雪は付いていない。踏跡や目印、登りやすい場所を自分で判断して進んでいく。岩が適度な大きさでホールド、スタンスが豊富なので危険はなく登りやすい。エアリアマップでは危険マークだが、鎖やフィックスロープは無いレベルだから危険度はそれほどではないだろう。

山頂の一角に登りつく 硫黄山山頂
硫黄山山頂から見た知床岳 硫黄山山頂から見た北方領土
硫黄山山頂から見た知床の山々(クリックで拡大)

 岩場を登りきって山頂一角に到着し、少し進むと三角点が登場、ここが硫黄山山頂だ。山頂標識近くの岩には残置された少し錆びた小型三脚。オホーツク海は雲海の下で海面は見えず、雲海の一角が盛り上がった場所は知床岳付近だろう。反対側を見ると雲が多いがその隙間から見える尖ったピークが羅臼岳だろう。あそこまで縦走は結構遠いなぁ。北方領土は知円別岳へと続く稜線が邪魔して見ることはできないが、太平洋側も雲海で島が見えるかどうか微妙そうだ。仮眠時間が短かったため、平坦な岩の上で少しばかり仮眠。やや風は強いが地面に寝転がればそれなりに防ぐことができ、日当たりがあれば結構心地よかった。温度計は今年のGWの銅倉尾根で藪に絡め取られて以来持っていないので気温は不明だが、おそらく15℃を切っているだろう。関東では考えられない気温で、アルプス級の山に匹敵するのではないか。

雪渓横断を終えて硫黄岳を見上げる 硫黄山南東鞍部
硫黄山南東鞍部西側の凹み 鞍部のシレトコスミレ

 しばしの休憩を終えて下山を開始したが、まだ充分な時間的余裕があるので知円別岳まで足を伸ばすことにした。そのためには夏道が埋もれていた傾斜のある雪渓を横断する必要があり、アイゼンの出番がありそうだ。岩稜帯を過ぎて雪田横を下って雪田の傾斜が緩み始めたところでザックをデポ、アタックザックを背負って6本爪軽アイゼンをつけてストックを片手に持ってステップキックを切りながら雪渓横断。雪が硬くないのでアイゼンは不要だったかもしれない。雪が終わればもうこの先はアイゼンもストックも要らないだろうと鞍部にデポした。鞍部西側は凹んだ場所があり噴火口跡だろうか。鞍部は火山性の砂礫地であり、シレトコスミレが咲いていた。花の形がスミレであるが色は話に聞いたように白なので間違いないだろう。

鞍部より登りのルート ガレの東端を登る
1500m付近から見た硫黄山 羅臼岳のガスが取れた

 鞍部から登りにかかり、少しの間は明瞭な道だったが小さな岩を越えてから不明瞭化してしまった。それまで明瞭だったのが消えたのでルートミスだろうと戻ってみたが、1箇所左に分岐する踏跡はロープが張ってあって入れないようになっていたのでこれは違いそうだ。そうなると露岩の先は植生のある中ではなくガレの岩が重なって足跡が残らない場所にルートが付いているとしか思えない。そう思ってガレを見上げると左縁に踏跡のような筋が見える。これなら確実と、露岩の先は石の上を歩いていくと砂礫地で踏跡出現、一安心。

1550m峰へ登る 露岩をよじ登る
1550m峰直下で右に曲がる ハイマツの中の道を下る

 これ以降は迷うような場所はなく、尾根上に出て1550m峰向けて踏跡を登っていく。途中、凸凹の多い1枚岩をよじ登るがこれは簡単に通過できた。1550m峰はてっぺんまで行く前にルートは右に曲がり、ハイマツの海の中の踏跡を下る。ここはきれいには刈り払いされていないので両側からハイマツのブラシでこすられる。露が乾いていてよかった。ハイマツが濡れていたら上下ともゴアを着ないと濡れ鼠になってしまう箇所だ。

雪渓途中から振り返る。結構急傾斜 途中から右へトラバース

 ハイマツを抜けて踏跡は尾根を外れて東斜面の浅い谷を下るようになり、すぐに大きな雪田に出て夏道は隠れてしまう。地形図を見ると登山道はここは尾根を東から巻いており、尾根上にはこの先に崖があるようだ。結構な傾斜の雪田でアイゼンとストックをデポしたことを後悔したが、雪は柔らかいので踵でステップを切りながら下れば大丈夫そうだ。登り返しのことも考えて歩幅を狭めて下っていく。途中で右にトラバースするようルート変更し、崖直下を通って雪田反対側のザレた斜面に取り付くとジグザグに踏跡があった。

尾根向かって砂礫の踏跡を登る 尾根に乗る
羅臼岳方面 この岩塔は右を巻く

 尾根上に復帰するといかにも火山らしい風景に変わり、植物が無くて岩がむき出しの尾根を進んでいく。真ん中付近で尖塔のような溶岩が林立する場所があり、どうやって通過するのかと思ったら右から巻いていた。尾根に戻ると知円別岳は目前だが、こちら側からだと崖があってまっすぐは登れそうになかった。東側から伸びる稜線から往復するのが良さそうだ。

岩塔を巻き終わったあと 知円別岳の北東斜面

 地形図によると縦走路は知円別岳の北東斜面を巻いて東岳とつながる稜線に出ることになっているが、その斜面は崩壊してガレており、ぱっと見たところでは踏跡は見えなかった。ただ、接近してみると傾斜はそれほどではなく、斜面に突っ込んで石と一緒に転落するようなことはなさそうで、適当に歩きやすいところを選んでトラバースしていく。石ゴロゴロのガレ地帯を横断し終わって稜線直下に出てもまだ踏跡は無いが、砂礫のガレ上端付近に踏跡ができていた。鹿も利用するようで蹄の跡もあった。すぐ先に南岳方面の分岐標識が見えているが、まずは知円別岳山頂を踏もうとUターンして稜線を上がり始めた。

主稜線に乗り知円別岳に向かう ガレの後は踏跡をいく(写真では見えないが)

 稜線上はハイマツ交じりの藪なので、障害物皆無のガレの縁を上がっていく。ここ数日に付けられたと思われる人間の足跡が残っており、登山道を外れて山頂へ向かった人がいるようだ。ガレの傾斜は大したことがなく適当に歩きやすいところを選んで進んで行き、やがて傾斜がきつくなってガレを進むのが難しくなったところで藪突入の覚悟を決めて尾根に上がると、皆考えることは同じようでハイマツの中に踏跡があった。ということは、知円別岳はそれなりに登られているようだ。この高さだと半分寝たハイマツなので大した障害にならずに登れるのはうれしいところだ。

知円別岳山頂 知円別岳から見た硫黄山
知円別岳から見た硫黄山〜知床岳(クリックで拡大)
知円別岳から見た西側

 登りきって溶岩と草付きの山頂に到着。360度の大展望で、ここまで来ると南側には国後島が見えるのだが、今日は雲が多くて前回の羅臼岳の時より見え方はイマイチだった。それでも西端の方は海岸線も見えていた。ここから見る東岳へと続く稜線は、知円別岳直下のようにガレが半分程度続いており尾根上のハイマツを歩く必要はなさそうだし、鞍部付近は風衝地帯なのか広範囲に緑が見えずこれまた藪漕ぎの必要もなく、その先も再びガレがあって山頂直下まで行けそうだった。東岳へは道が無い(正確には廃道化している)ので登る予定はなかったが、この様子を見てオプションに加えることに決定。往復で1時間くらいかかるだろうが、せっかくここまで来たのなら許容範囲だろう。アタックザックに水、飯を入れてこなかったのがちょっと悔やまれたが、この気温なら水を飲まなくても我慢できるだろう。

南岳方面分岐へと下る 南岳方面分岐。シレトコスミレが生えている

 縦走路に戻って南岳方面に右に逃げる登山道を見送って尾根を直進。辺りは乾燥した火山性の砂礫の原に変わり、いかにもコマクサが生えていそうな場所だと思って地面を見ると、コマクサはほとんど見られず代わりにシレトコスミレが群生していた。おお、シレトコスミレって乾燥した砂礫地に生えるものなのか。硫黄山の登山道付近ではほんの数株あるくらいしか見かけなかったが、ここはたくさん生えている。心行くまで堪能したいならここまで足を伸ばすのをお勧めしたい。

砂礫を過ぎるとハイマツが始まる ガレの縁を歩く。鹿道あり

 砂礫地はすぐ終わって稜線上がハイマツに覆われると、藪を避けて北斜面のガレの最上部を歩く。ガレは砂礫で傾斜が緩く危険はなくルートに最適だ。動物も同様の考えのようで獣の足跡が続いていて鹿の新しい足跡もあった。鹿はシレトコスミレも食うかなぁ。1箇所だけガレの傾斜がきつくて10mほどハイマツを突っ切ったが、その先で再びガレ上部を歩けるようになった。

鞍部は広い砂礫帯 ケルンあり
分かりにくいがシレトコスミレが群生 シレトコスミレ

 鞍部付近になると稜線のハイマツがきれいさっぱり消えて広範囲に砂礫地が広がり歩きやすくなるのでルートを尾根上に変更する。ここはさっきの南岳方面分岐よりシレトコスミレの群生密度が高く、踏みつけないように足元に注意しながら進んでいく必要があった。一株一株は小さいが数は相当なものだ。

東岳へとガレを登る 東岳山頂

 登りに変わると砂礫地は終わって再びハイマツが押し寄せてくるのでガレの縁にルートを移して最後の登りにかかる。最後は溶岩の間を縫って上がっていき、大きな岩の左を巻いて適当に登ると東岳山頂だった。

東岳から見た知床西部
東岳から見た国後島西部

 山頂には小さなケルンがあってそれだけが人の気配を示していたが、目印や標識は無かった。北東側に目を向けると鞍部の先には知床岳。あちらも道が無い山だが東岳より格段に距離が長く、山頂を目指すのなら事前に情報収集が必要だろう。無雪期でも登れるのかどうか私は知らないが、こう見ると登りたくなる最果ての地だ。

知円別岳へ戻る
知円別岳を巻く 岩峰の左を巻く
知床五湖 1550m峰へと登る雪渓。これを登る
1550m峰へと登る 1550m峰から西に下る
1500m鞍部 硫黄山登山道に戻る

 山頂で少し休憩して、まずは硫黄山直下の分岐を目指して移動開始。平坦な尾根が続くのならいいが、微妙なアップダウンが続くので意外に疲れる。まず南岳分岐まで登り返し、1550m峰手前鞍部で雪渓を下って1550m峰に登り返し、また下って雪渓を横断して硫黄山登山道に登り返す。帰りは行きにステップを切ったのでアイゼンは使わなかった。登山道に出る頃には硫黄山等1500m付近の山にはガスがかかるようになっていた。まるで夏山の天気だ。山頂方面はまだ登っている人がいるのか分からないが、硫黄沢から稜線に出た箇所では5,6人のパーティーが賑やかに休憩中だった。こちらは渇いた喉を潤しつつしばし休憩。本日歩いた累積標高差はもう1800mくらいになったはずだ。北海道でもよく歩いたなぁ。

硫黄沢を登り切った稜線で休憩中のパーティー ガスの中を下る
再び晴れの層に出た 硫黄沢から左に逃げるポイント

 涼しいというより寒いくらいのガスの層に突っ込んだまま下山開始、しかしガスはすぐに晴れた。砂礫の谷を通過して残雪に乗ると半分滑りながら快速で下っていく。もう午後1時過ぎだというのに登ってくる人の姿がポツリポツリ見える。出発が何時だったのか知らないが登山口に明るい時刻に戻れるのだろうか。ガスの層はすぐに終わり、帰りは青いオホーツク海を正面に見ながらの下りとなった。やっぱり周囲の景色が見えるのは楽しい。おまけに雪の上は涼しく快適。

はるか下までハイマツの緑が続く ハイマツの海の切り開きを下る

 硫黄沢を離れて笹がうるさいトラバースを終えて尾根に乗り、立ったハイマツの海の中の切り開きを下っていく。知床ではえらく標高が低いところまでハイマツがはびこっているようで、ずっと麓まで同じ色の絨毯が続いていた。さすがにここにはヒグマはいないだろう。

新火口上端に出た。こんな展望だったとは オホーツク海を見ながら下る
小さい噴気口。弱いが熱い蒸気が出ている 分かりにくいが火口の一つ

 新噴火口に出るとぱったりとハイマツが消えて溶岩ゴロゴロの開けた斜面に変貌する。ガスが切れて火口らしい火口が見られるかと思いきや、1箇所だけそれらしき窪みはあったが、いかにもという明瞭な火口は無かった。でも帰りがけに登山道上で小さな噴気を発見。噴気というか湯気が出ているのが正直なところだと思うが手をかざすと火傷しそうな高温だった。たぶん登りで地熱が感じられた場所だと思う。新噴火口付近は樹林が切れて直射日光が降り注ぎ、風が凪いだ状態では暑かった。

樹林帯を下る 登山口到着
ゲート到着 知床五湖からの林道分岐

 硫黄鉱山跡を通過して樹林帯に突入、ヒグマの出没が多い場所だが帰路でも出会わずに済んだ。登山口に到着し、扇でパタパタ扇ぎながら林道を歩きゲートへ。この時間は詰め所に人間がいて、まだ無人の時間帯にポストに入れられた道路の通行申請書から本日の入山者名簿を作っており、下山の時刻を書き入れて入山の時刻はこちらに聞いてきた。駐車場は賑わっており、カムイワッカの滝の観光客が大半だろう。ここで温泉に浸かってもいいのだが、また登るのはイヤなのでウトロ温泉を目指した。東京は日中の気温は軽く30℃を越えていたと思うが、ウトロでは午後4時の気温が18℃とTシャツに半ズボンでは寒かった!


2000m未満山行記録リストに戻る

ホームページトップに戻る